2020.5.23加筆
光瀬龍 文 萩尾望都 画 早川書房 1995
光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」を萩尾望都が劇画化し、そのあとにこの作品が出た。これは二人の幻想的共作である。
劇画というより絵本というべきであろうか。
今までの劇画とは異なり、幼児の絵本のように、見開きの画の中に文をいれて、絵物語となっている。
この本は1995年発行の文庫版であるが、わたしは文庫になる前の本を見ている。
もう一度読もうと思ったが、題名を思い出せない。北千住の中央図書館の係りの方に調べていただいた。
話の内容からどうもこれらしいとなったが、庫内に見あたらない。そこで梅田の図書館に文庫本があることを調べてくれた。
そして借り出したのが本書である。
記憶とはかなり異なり、疑問を持ちながら読んでいたが、読み終わって間違いないと判った。記憶とはいかに曖昧なものか。
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上
宇宙船乗りの歌が聞こえる
ルシアナ
テラリアは遠く
星と粘土板
たそがれの楼蘭
廃墟の旅人
遠い決別
ある記録
下
惑星アルマナ
アヨドーヤ物語
最後のアヨドーヤ物語が中編、それ以外は短編といってよかろう。
青春の夢を追い求め翡翠座イオへの探検に旅立った夫を追いかけて異国の星に赴いた妻。
凍土の平原に広がる惑星ルシアナの廃墟で探検隊員の前に夜毎に現れる謎の美少女。
火星の東キャナル市に惑星探検の宇宙船建造を命じる地球政府。繰り返し、ついに火星の物資は底をつく。それでも作らねばならぬ火星人の苦しみ。その宇宙船が飛び立つ日、愛する男を奪われた女たちの決断は。
心ない地球人の干渉が引き起こした、異星の悲劇。
アトランティス王国滅亡の陰に隠されたヴァーラタ国の悲劇的終末。
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特に「廃墟の旅人」を取りあげよう。
天山山脈の北に不死の都があるという。
遠いむかし、
天から光り物が飛んできて砂漠へ落ちた。
一人の神人があらわれ、
近くの町に入った。
それからその町はしあわせに満ちたという。
その豊かな町では城門を閉じる必要もなく門の鎖は緑青をふいていた。
王宮では王女の結婚式が行われていた。
そこに白馬に乗って入ってきた美しい異国の娘がいた。サテンの帯に黄金の太刀をつり、五弦の月琴を背負っていた。
式を主催する神官に言う。
「……、不死の国があると聞いてやってきた。わたしは阿修羅王だ」
神官の言葉を制して言う。
「帰って天帝につたえるがよい。生も、死の一つの象(かたち)。死もまた生のひとつの相(すがた)に過ぎない。人の情も夢も、限りある生命なればこそ。その生命が永遠ときそい合って何を得んとはするか」
悲しみと怒りが広場を閉じた。
「この町を時の流れから切り離し、終わることのないくりかえしの中に封じこめるとは。こは永遠に似て永遠にあらず。ただ色褪せた昨日があるのみではないか」
阿修羅王は黄金の太刀をふりおろす。
一瞬にして城邑は消えた。
さえぎるもののない砂漠に……
白馬に身をゆだねた流離の娘がひとり、闇に消えていった。