高橋伸夫 慶應義塾大学出版会 2021.7
この本、内容は素晴らしい。漠然としか知らなかった中国共産党の歴史を克明に書いている。
たとえばわたしは、戦前の中国共産党は、名前ばかりでほとんど力がなかった、と思っていた。ところが、1925年1月の党員は994人だったのが1927年春には5万7967人になっている。
本拠地で共産党を支えた財力は、半分近くが麻薬だったという。
長征(あの大敗走)のころでは軍30万〜40万で、貴州省の戦いで約三万人になった。
毛沢東軍以外にも各地に小さな共産党軍がいた。
あるいは内部抗争のすさまじさ。
これらを書いてあるページを示したいが、探せなかった。このような断片的なことは、ここに書いてもあまり意味がないので、ここまでとする。
戦後では、胡錦濤の一期目は前の江沢民に支配され、二期目は習近平に掣肘を加えられ、ほとんど活動できなかったという。
先の共産党大会で、胡錦濤が資料を開くことも妨げられ、追い出されたシーンがあったが、この本を読んで納得した。
内容はいいのだが、日本語がはっきりせず、印象が薄い。
まず、縦横ともいっぱいに文字が入り、改行が1ページに2回か3回で、だらだらと続く。思わず読むのをためらう。また余計な修飾が多い。
序文を読んだとき、外国語の翻訳かと思った。しかし、著者は日本語を母語としているはず。文章はまず英語または漢語の論理構造で作り、頭の中で翻訳して書いているようだ。
例を挙げる。最後のページである。
習近平政権は、二〇一九年末に武漢からやがて中国全土へと拡散した新型コロナウイルスを、世界全体へと拡散させた後に封じ込めた。だがこの「成功」は大きな代償も伴った。
@習近平政権は……封じ込めた。 の間が長すぎ。これでもこの本では短い方だ。
A拡散させた後 拡散方法は書いてない。主語を勘違いしたか。翻訳ミスか。わたしは「拡散してしまった」と思う。「拡散させた」とは思わない。
B封じ込めた。 「封じ込めようとした。」であろう。
Dこの「成功」は 中国語では“成功”とすることばであろう。「成功と称する」の意味。
他にも「AはBではなくCである。」これが多行に渡ると、どこまでがAで、どこまでがBで、どこまでがCか、判然としなくなる。自分の知識で補うことになる。
代名詞の使い方が一定していない。無生物主語も多い。たとえば、
膨大な資料は研究者の心を折る。 これは「研究者は膨大な資料を見て心が折れる」の方が良いが、正しくは研究者とは自分のことだから「膨大な資料を見て心が折れた」で良いはず。