白 聖姑
わが謫仙楼には、ときどき棋客が訪れる。狭いながら盤石を用意してある。これは10年前の聖姑(せいこ)との対局である。

ここで白▲に切ってきた。右下の黒は手を抜いても生きるのだろうか。それなら黒1でオワである。
聖姑と知り合ったのは10年前であった。若い友人が結婚して、その花嫁の友人として祝いに来たのであった。たまたま碁の話が出て、「では謫仙楼で一局」となったのだ。
棋力が判らないので互先で打った。
「わたし、来年は30になるのね、早くしないと…」などと言いながら打つ。

手抜きはとても自信がなく、黒1・白2・黒3と打って「勝ちました」と言ったつもり。
ところが白4・黒5・白6となって緊急事態。結局は黒は左半分をとられ投了した。
聖姑の曰く「右下は黒は手を抜いてもよかったのよ」。しかも上の図でもオワとはいえないらしい。本当かなあ。
この時点でそれが読める聖姑は、とてもわたしと互先とは思えない。二子以上の差がありそう。不思議なことに、その後は勝ったり負けたりでいい勝負なのだ。
勝利の記念にと、謫仙楼自慢の謫仙酒130年物を一本要求した。どうして謫仙酒のあることを知っていたんだろう。
先月来たときは、「わたしもいよいよ二十代とお別れだから」と言って、謫仙酒を持ち帰った。
おいおい、10年前にもそんなこと言っていなかったかあ。
10年後にも言われそうな気がしてきた。