2007年09月03日

狐罠

  北森鴻  講談社  1997.5
 旗師冬狐堂シリーズの第一作である。
 旗師とは店を持たない骨董業者のこと。ひとりで仕事をする。
 蘊蓄を傾けるという言葉がある。それを小説でやることがある。あるどころではない。多少を問わなければ必ずあるといえよう。これがなければ、読む価値はほとんどない。
 骨董品の世界の奥深さを、わたしのような素人に判りやすく解説した、貴重な一冊である。
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 この業界では、騙されても騙されたと言えない性質がある。騙されたのは骨董品を見る目がないことの証明であり、騙されたことが公開されたら、この世界で生きていけなくなるくらいだ。もっとも裏情報では、知る人は知っている。
 同業者を騙すことを「目利き殺し」という。
 この小説は「目利き殺し」の被害者である冬狐堂の陶子が仕返しをたくらむ話である。

 大英博物館を騙すほどの贋作の名人がいた。この老人に仕返しの贋作を依頼する。
 この贋作製造の話は鬼気迫るものがある。

 800年も前の材木を手に入れる。
 作業中は昔の衣装を着る。現在の作業服では体の動きが違う可能性がある。
 道具はその時代の道具を使う。なければその時代の作品からそのような道具を推定して道具を作成する。
 灯りは電気を使わない、しかも夜に作業をする。
 口紅を付けている者には作業を見せない。そのにおいでばれる。
 仕上げは、時代を付けるため脂をぬるのだが、その脂とは人の脂である。

 どれ一つをとっても、すさまじい話ではないか。そしてオリジナル美術品を作り上げる。

 それでも仕返しは成功しなかったといえよう。関連する別な筋から仕返すことになる。

 陶子に目利き殺しを仕掛けた同業者は、つねに贋作を扱っていることで知られいていた。
 贋作を作る。国立博物館に持ち込み鑑定を依頼する。本物のお墨付きをもらう。そして高値で売りさばく。
 あるいはあちこちの美術展に貸し出す。そのパンフレットがたまると、それを利用して、素人に本物と錯覚させ売り込む。
 逆に本物を偽物扱いして買いたたく。この被害者が陶子を利用して復讐を企むのだった。

 わたし(謫仙)は上野の博物館ですぐれたレプリカ(複製品)を見たことがある。法隆寺の至宝「百済観音」などである。
 その前に本物を見ているが、もちろん区別が付くはずもなく、レプリカでも感動する。
 このレプリカと贋作物とはどこが違うのか。
 オリジナルと贋作物とはどこが違うのか。
 この小説のようにオリジナルな贋作もあるのだ。

 それからある店でビールを飲む話がある。
 少し飲んで、少し話をして、また飲もうとすると、店の主はビールを変えてしまう。
「すみません、差し出がましい真似をしてしまって、グラスで死んでしまったビールを見るのが、どうしても忍びがたいのです」

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 当然ながら、ここに書いたことは、小説の話であって、現実にこのような話があるのかどうか、わたしには判らない。だが一読を勧める。
posted by たくせん(謫仙) at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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