2008年04月06日

都々逸読本

    杉原残華   芳賀書店   昭和42年1月
 都々逸(どどいつ)は、江戸末期、初代の都々逸坊扇歌(1804−1852)によって大成された口語による定型詩で、七・七・七・五の二十六文字唄というのが一般的。
     dodoitu.jpg

 遡って、隆達節(文禄・慶長)→ 弄斉節(ろうさいぶし 慶長・元和)→ 方撥(かたばち 寛永) →投節(延宝)→ 潮来節(寛政)→ よしこの節(文政)→ どどいつ(天保)と、似た二十六文字唄が続いている。
「トドイツドイドイ 浮世はサクサク」という囃子詞がついたので都々逸となったようだ。
 どどいつ発祥の地は尾張の熱田というのが定説。寛政十二年ころ熱田のお亀さんが歌ったのがどどいつの始まり。それを広めたのが都々逸坊扇歌、つまり扇歌のほうが後なのだ。
 都々逸にも時代の流れはある。古調→ 維新調→ 明治調→ 都調→ 街歌調
 たとえば都調とは都新聞に依る(大正から昭和の初めころ)。明治にはすでに短文藝として成り立っていたことが判る。
 元来は、三味線と共に歌われる俗曲であるが、新聞でとなれば文が先に来ることになろうか。月並みな歌が多く、「余韻とか感動を伴わない歌は歌ではなく文章の一節である」と厳しい。
 わたし(謫仙)などは都々逸を聞くのは寄席であった。時にテレビで聞くこともあるが、寄席がらみ。当然のように艶っぽい歌が多い。だがそれに限るわけではない。本で見たものもある。

 何をくよくよ川端柳 水の流れを見て暮らす(司馬遼太郎によれば、坂本竜馬作)
 三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい(高杉晋作作説、他の説もある)
 この酒を 止めちゃ嫌だよ酔わせておくれ まさか素面じゃ言いにくい(寄席で聞いた)

 新しい(?)歌として次のような歌も。吉川英治のことだ。
 雉子郎を 捨てて幾とせ英治で稼ぐ ペンに昔を忘れがち (篠田井窓)

 現代人には陳腐かも知れないが、もちろん恋の歌は主流である。
 たんとお濡れと降る雨かしら そしてやらずの雨かしら (笛我)

 七・七・七・五の音律に従うのが基本だが、五字冠りと呼ばれる五・七・七・七・五という形式もある。
 想出は たった一つの面影抱いて 泣いた十九の春の夢 (福次郎)

 七・七・七・五は、さらに三・四・四・三・三・四・五と分けられ、これが正調である。佐渡おけさの調べに乗ればよい。
 さどへ さどへと くさきも なびく さどは いよいか すみよいか

 わたしはこの本を昭和四十四年八月に古本屋で見つけた。それから五年ほどしてSF小説に夢中になった。小松左京・星新一・平井和正・豊田有恒・式貴士などなど。
 その作家たちが都々逸に言及するとき、この本を参考にしているようだった。当時も(今でも)都々逸に関する本は少なかったのだろう。記念のために記録しておく。

 最後に著者の作品を。
 あなたにも ちょっと言えないいい夢でした ぽんとたたいた帯の音 (残華)
 胸は鳴門の渦汐ほどに 動悸さかまく久しぶり  (残華)
posted by たくせん(謫仙) at 07:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
杉原残華:都々逸読本 小生も長年愛読しています。今となっては「稀少本」の仲間入りをしているそうです。
お江戸の方の様ですが「初代柳家三亀松」の舞台をご覧になりましたか?
小生、学生ながら三亀松が道頓堀「角座」に来演すれば必ず見に行っていました。
 また楽しませて頂きます。
Posted by Amachan_001 at 2010年10月05日 01:28
Amachan_001 さん

「初代柳家三亀松」、わたしはひとりしか知らないので初代なのかどうか。
当ブログの「碁のうた碁のこころ」に書いた文。

 とびっきりの都々逸を紹介する。
  水のたまった 刈田の碁盤 月が一目 先に置く
 さんかめまつ(三亀松=やなぎやみきまつ)の都々逸しか知らないわたしには目の覚める思いがした。
 なお、月なら白石と見るところだが、白が先に置くことはない。

 三亀松ならLPレコードも一枚持っているのですが、30年以上聞くこともなくいます。
 日本人の心響く言葉なんですが、現代は言葉が氾濫する時代なので、陰に引っ込んでしまいましたね。
Posted by たくせん(謫仙) at 2010年10月05日 06:53
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。