2017年01月23日

神の守人

2016.12.20 記

神の守人
上橋菜穂子   新潮社   2009.8

ロタ王国では富の南北問題があった。豊かな南と貧しい北と。
それは民族問題でもあった。
過去に王国を築きながら、今では抑圧される北の貧しいタルの民には、過去の出来事に対する、ロタ王国建国の伝説とは異なる伝説があった。
そして、伝説の恐ろしき神<タルハマヤ>を呼び寄せる力を持つタルの少女アスラが現れた。巨大な力ゆえに大事件を起こし、追われる身となる。
 その恐ろしき神<タルハマヤ>の力を使ってよいものか、その選択をする少女アスラの背負うものが大きすぎるのだ。

   いずれ災いの種になるから、殺したほうがいい。

 一見まともな主張のようだが、民族差別はそんな主張から生まれる。可能性があるからと殺して良いのか。
 立場の違いによって、解釈は異なる。自らを守るすべを持たない少女が危険になったとき、バルサは少女の背景を知らずに、少女を守るという選択をする。
 だんだん背景が判ってきたが、少女を守るという選択は変わらない。それは少女の恐ろしき神<タルハマヤ>に対する解釈にも影響を与えている。

 南北・民族・宗教・教育などの問題、かなり重いテーマの本だった。この本が書かれた頃、イラク問題があったという。
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2017年01月22日

虚空の旅人

2016.7.2 記

虚空(そら)の旅人
上橋菜穂子   新潮社   2008.8

     soranotabibito.jpg
 「精霊の守り人」の冒険から3年後、14歳になった「新ヨゴ皇国」の皇太子チャグムと、星読(ほしよみ)博士のシュガが、サンガル王国の新王の即位式に招かれて危難に遭遇。バルサは思い出に出るのみ。
 チャグムが成長している。皇太子としての覚悟が出来ている。これが頼もしい。しかも権力欲に汚されていない。
 海洋国家サンガル王国の国土や政治、民族特に漁民の風俗生活ぶりが生き生きとかかれている。
 現王が元気だが新王を即位させるのも、この国の特徴。そして女たちが意外に権力があって活躍する。
 新ヨゴ皇国の南に海に突き出た半島のサンガル王国は海の諸島も支配している。しかしその支配は緩やか。主な島守の妻は王女。
 南の大陸のタルシュ帝国がサンガル王国を狙っていて、今までの作品に出てきた国々も脅威を感じることになる。
 まず海域から侵略と、島民たちを利用しようとする。それに乗せられるものもいる。
 島守のリーダー格のアドルは、次のように考える。
(賢いカリーナ。おまえは、サンガル王家が消えたときどうする? 俺がやったことは裏切りではなくて、おれたちの暮らしを守るためのもっともよい選択だったのだとわかってくれるかな)
 夫の態度に疑問にもつ王子に、妻のカリーナ(王女)は言う。
「ヤドカリが、それまでの殻を捨てて、大きな殻の下に入ろうとしているようなものでしょう。タルシュ帝国は自分たちの血を流さないでサンガルを手に入れようと…」
 夫のアドルが利用されていることを見抜いている。

 シュガがチャグムに協力する関係になっている。
「わたしは、殿下に誓いましたから。―陰謀を知りながら、だれかを見殺しにするようなことは、決して、させぬと」
「清い、輝く魂を身に秘めたままで、政をおこなえる方がいることを、わたしは信じます」

 未来を暗示する言葉だ。
 タルシュ帝国の最初の接触はくじいたが、そこまでで、続きがあることを感じさせる。
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2017年01月21日

精霊の守り人

2017.4.27 記

精霊の守り人
上橋菜穂子   新潮社   2007.4
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 今年、NHKでドラマ化された。その第1回を見た。調べてみて原作小説があることを知り、直ちに本屋に行った。
 ドラマは4回で第一話が完結だが、第2回を見る前に読み終えた。
 わたしはファンタジーが好きである。ハリポタは全巻そろえて持っている。十二国記はすべて読んだ。彩雲国物語は図書館から借りた。グインサーガも全巻持っていたが、今は大部分手放した。
 金庸小説も武侠ファンタジーであり、全巻そろっていて、もう三回以上読んだ。
 解説によれば、「精霊の守り人」が書かれたのは1996年である。なんとわたしが金庸小説にはまった年である。それなのにこんなにおもしろい小説を知らなかった。
 もっとも、文庫化にあたり、漢字を増やしたりして大人に読みやすくしたというので、これでよかったかもしれない。それでも文庫化は2007年、すでに9年たつ。
 ファンタジーは現実ではない。だから舞台設定をきちんと行わなければならない。つまりその世界を設計することだ。話の都合で適当に能力を付加したり世界を変えたりしてはいけない。
 この小説はその世界がきちんと出来ている。それで引き込まれる。小説もドラマも続きが楽しみだ。
 ドラマと小説では差異がある。主人公バルサが二ノ妃に皇子チャグムの護衛を頼まれるあたり、かなり異なる。そうなるとその後の展開もそれに沿わなければならない。それがきちんと出来ているかどうか、それがドラマの世界が出来ているかどうかということだ。矛盾はなかった。
 現在は第一話は完結している。期待通りだった。第二話は来年の一月という。
 ドラマのバルサ役は「綾瀬はるか」だ。なんと迫力のあることよ。
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2017年01月01日

周 理想化された古代王朝

周 理想化された古代王朝
佐藤信弥   中央公論新社   2016.9
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 理想化された周の実像に迫る学術書(のよう)である。
 一般的には取っつきにくいといえよう。周に対して興味のない人には手がでないだろう。
 だが、 封神演義 や宮城谷昌光の小説「太公望」などを読んだ人は、本当はどうなんだろうと思うだろう。その答えである。周の歴史、特に西周に焦点を当てている。

 わたしは誤解していた。本の題名から、なぜ理想化されたのか、という本だと思っていたのだ。
 至聖林(孔林) に書いたが、 商人の子貢が、全国を回って商売をし、行った先々で、うちの先生(孔子)は偉いと宣伝した。それで孔子が偉いということになってしまった。 という考え方をしている。
 その孔子が周を理想化したので、後に各王朝が利用した、その理由を研究したのか。と思っていたのだ。

 著者は西周時代の青銅器銘文などの研究家である。従来日本にはほとんど紹介されなかった時代である。新しい資料(青銅器銘文など)が次々に見つかり、全体像が構築できた。
 孔子は周を理想化したが、現実は、恒常的に戦争を続けていた国家であったのだ。
 後世、儒を理想としても現実には無理で、まねをしたら政治が破綻してしまうのも当然である。
 西周が滅び(前770)東周として再興する(前722)までけっこう時間がかかっている。
 あと、外部勢力に言及していないので、この時代の東アジアの様子が判らないのが残念。

 現代では目にすることのない特殊な文字は、初出時だけでなく何度も仮名を振って欲しい。読めなくて意味も通じなくなりやすい。
西周(BC11世紀−BC771年)
東周(BC770年−BC256年)(春秋期+戦国期)
 この間に、政治軍事の中心は王から地方の諸侯に移っていった。結局小国に分離独立し、周は消滅して始皇帝の時代になる。
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2016年12月27日

子どもを守るために知っておきたいこと

子どもを守るために知っておきたいこと
メタモル出版   2016.7

 13人の専門家による共著である。
 子どもを守ることだけでなく、大人も自分を守るために知っておきたいことばかり。
 いま世間では、どのようなデマ情報が流れているのか、そしてどのような問題が起きているのか。
 インターネット上では、根拠のない適当な記事を量産しているところもあり、親たちを混乱させている。それどころか学校や公的機関や医師でさえ、間違った情報を発信したりする。
 極めつけはホメオパシー、薬は大量に摂れば毒になるが、適度に薄めて、薬として役立てている。これを極度に薄めあめ玉にしたもの。本来の成分などないに等しい。根拠はイギリスでは認められているというのだが、逆にイギリス以外は認められていない。イギリスでも効かないことは判っているが、希望者がいるから禁止していない、だけのもの。
 本来の成分がなくとも水が記憶しているそうだ。まさか。
 食べ物でも、あれを勧めたりこれを勧めたりと混乱するが、偏食で良いはずがなく、マイナス面も検討せねばならない。
 あるいは「江戸しぐさ」。なんと学校で取り上げたという。わたしも騙されてしまったが、芝三光なる人物の捏造と判っている。なかなかいいことも言うが、基本が捏造である以上、検討せずに信じてはならない。
 放射線の話もある。薬と同じように程度問題なのだ。津波による原子炉爆発があったが、今では福島でも他と同じ程度になっている。もともと自然界には放射線は一般的にあるので、福島が特に危険ということはない。もちろん危険地域は存在する。これははっきりさせねばならない。

 よく自然食品を推薦する人がいる。自然の意味は曖昧だ。
 わたしは登山の友人と話したことがあるが、自然の植物は毒を含むものが多く、山菜より八百屋やスーバーに並ぶ野菜の方が、遙かに旨くて安くて安全である。
 そんな常識の本である。
 これで完璧ということはなく、不備な点もあるだろう。詳しい人なら間違いを見つけるかもしれない。
「ニセ医学」に騙されないために と同じく、冷静な状態なら誰でも正しく判断できることなので、いざとなる前に読んでおきたい。
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2016年12月07日

それも一局

それも一局
弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ
内藤由起子   水曜社   2016.10
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 昭和の前半を代表する棋士、木谷實九段。冠は少ないが、(もちろん当時はタイトル戦が少なかった)プロ棋士を次々と育て上げ、呉清源九段と並び称された、昭和初期の大棋士である。
 自宅を「木谷道場」として、育てたプロ棋士は51人、日本の棋士育成を独りでやったようなもので、一時はタイトルは木谷門下のたらい回しと言われたこともある。
 木谷道場は平塚にあった。著者も平塚出身で碁を学び観戦記者となる。
 弟子は通いの弟子もいるが、ほとんどは住み込みである。著者はその弟子たちに接し、直接話を聞いて、木谷道場の様子を綴っている。

 いったいどのように教育したのか。
 弟子たちの碁を見て、「それも一局だね」とは、木谷がよく口にしていた言葉。
 この言葉は本来盤上をさして言う言葉である。碁が打たれ、途中で別な手段もあって、その後の展開が変わるとき、その別な手をさして言う。続けて打ってみれば拙い手もあろう。しかし、そのとき、その手が悪手とはいえず、その後が違った碁になるならば、「それも一局だね」と評価する。
 決して上から頭ごなしに指導することはなかったという。
 塾頭格の大竹英雄、三羽烏と言われた石田芳夫・武宮正樹・加藤正夫、さらに小林光一・趙治勲などそれぞれ個性が違う。それ以外の棋士も独特の個性で光り輝いている。これらの人が互いに磨き合っていた。
「それも一局だね」には「それも一つの人生だね」という意も込められている。どんな人生も一つの人生なのだ。
 木谷夫人の美春さんはもと地獄谷温泉の旅館の長女であった。毎日三十人分もの食事を作ったのも、その経験が生きたのかもしれない。夫人は七人の自分の子も、弟子たちと区別しなかった。個性を尊重した。そのため七人は全く違う道を選んでいる。
 プロ棋士ばかりでなく、周りの人たちの話もある。

 第11章では、海外の子どもたちの夢をお手伝い 小林千寿 
として、小林千寿六段の話がある。
 多くの欧州の青少年の世話し、二人のプロ棋士を育てた、異色の経歴の持ち主である。
 木谷家の長男である医師の健一さんから電話があった。
「君は父がやりたかったことをやっている。父は戦後の焼け野原をみて、『もし世界中の人が囲碁をやっていれば、こんな戦争は起きなかっただろう』ってよく言っていましたから」
と、海外普及の努力を評価した。
 順調だったわけではない。初めて育てたハンスピーチ六段は囲碁普及のおり、グアテマラで強盗の凶弾に倒れて亡くなっている。
 それから13年。今年になり、アンティ・トルマネン君が入段した。二人目のプロ棋士だ。

 不肖私は小林千寿六段のアマの弟子である。木谷九段の孫弟子と言うことになる。千寿会に参加してもう15年になった。入会して1年後の正月にハンスピーチ六段の訃報を聞いた。ハンスピーチ六段には一年間で十局ほど指導碁を打っていただいた記憶がある。
 千寿会に参加しなかったならば、全く違った人生を送ったことだろう。それも一局なンだが。

参考  ハンスピーチさん死去
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2016年11月27日

リビア砂漠探検記

リビア砂漠探検記
石毛直道   講談社   1973.6

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 1968年、リビア王国を探検した人がいた。
 リビアは王国だったのか、と疑問に思う人もいるだろう。あのカダフィー大佐の革命の前の話である。著者は砂漠の小さな村の生活ぶりを詳しく書いている。
 民は税金を払わず、政府は石油収入によってえた金を、広く薄くばらまいて統治していたのだ。そのため砂漠でも多くの人が生活している。
 住めば地獄だろうが、著者はどんなことにも平然と、客観的に見ているので、砂漠の生活が楽しそうに思えたりする。食事も粗末だが、普通に食べられそうに思えたりする。
 そして後半はリビア砂漠の道なき道を、荷物運送のトラックに乗って、南のチャドへ行く冒険旅行の話になる。その冒険旅行によくある事件の数々を、著者は鋭い観察眼で気負わずに書いている。
 五十年近く前の砂漠地帯の生活は、極地体験であろう。
 グーグルアースを見ると、今ではかなり数の円形の畑地がある。住宅も多いようだ。それでも場所によっては、今でも当時と似たような生活をしているかもしれない。
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2016年11月21日

あなたは、なぜ太ってしまうのか?

あなたは、なぜ太ってしまうのか?  肥満が世界を滅ぼす!
バリー・ポプキン   朝日新聞出版   2009.12

 世界的な肥満増大に対する警告の書だ。近年の社会の変化が、肥満と病気を引き起こしていることを具体的に解説している。(全訳である)
 まず、太る原因は、摂取カロリーの過多である。食べる量が多すぎるか、運動などで消費するカロリーが過小であるか、どちらかだ。そのカロリーは糖質であろうと脂質であろうと同じこと。
 ではなぜ多く食べてしまうのか、なぜ運動不足になるのか。その原因を検証している。
 アメリカの例、中国の例、インドの例、その他世界中を俯瞰して、その原因は食のグローバリゼーションであるとする。時期的にもその時期に一致する。アメリカでも50年前は肥満は少なかったのだ。
 外食中心(中食を含む)で、ハンバーガーのようなジャンクフードが多くなった。
 飲み物もジュースやコカコーラなど糖分の多い飲み物となり、その分食べる量は減らさねばならないのに、飲まないときと同じように食べている。

 これらの例を具体的に細かく説明している。しかし、わたしが読んでいて、そんな具体的な例が必要なのか疑ってしまう。
 エレンとボブの日常の暮らしぶり。どこに住み、何時何歳の子どもを学校に送り、何を食べ…何を飲み…、これがあまりに細かい。もちろんわたしの知らない人である。エレンとボブの特殊例ではない。それがジャックあろうがベティであろうが成り立つ話だ。ならば特定の例にせず、その町の平均的な生活で良いのではないか。まあ、これがアメリカ的な書き方か。
 ダイエットをしようとした人なら、そんなことはわかってるだろう。だがうまくいかない。再確認の必要がある。
 読んでいて、「だからどうした、だからどうした」と、いらいらしてくる。250ページあるが、50ページ程度にまとめられるそうな気がする。
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2016年11月12日

砂の文明 石の文明 泥の文明

砂の文明 石の文明 泥の文明
松本健一   岩波書店   2012.8 (2003版の改訂版)
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 世界を、砂の文明・石の文明・泥の文明と分類し、その特徴をもって、古今の世界の状況を判りやすく説明している。
 特に今の中東情勢を、砂の文明と石の文明の衝突として解釈するあたり判りやすい。
 ただし、何度か「○○であるとすれば、……はこうなる」と説明しているように、これは仮説であって、できれば、逆に「○○でないとすれば、……はこうなる」という説明も欲しいところ。
 まるで誰かから「○○であるとすれば、」という宿題に答えたようだ。
「自分は信じていないが、○○であるとすれば、…はこうなる」と言っているみたいだ。
 自分の考えなので、「次のように考えた」でいいはず。

 石の文明とは薄い土地の下が石の地域で、中部欧州などを指す。ここは草地となり、農業に適さず、産業は牧畜であり、生産を拡大するには、外に土地を求めることになる。そのために西洋文明が起こった。そして世界を侵略する、つまり世界のあちこちを植民地化した。
 砂の文明とは、砂漠地帯を指す。土地は不毛でそこでは永住できない。砂漠周辺の人を対象とする商業活動を行う。そのため、ネットワークを利用し交易する。国境という概念がない。
 泥の文明とは、アジアモンスーン地帯など、豊かな土地のこと。ここでは定住して農業を行う。生産をあげるには、土地や品種を改良し質を高める。土地を広げようとすると、となりの土地とぶつかることになるからだ。

 こう考えると、石の文明が拡張して他地域を占領し独占し、それと国境を無視する砂の文明とが衝突することになるのが理解できる。
 また砂の文明では、不毛の太地で孤独に生きる精神的な支えとして、絶対神である一神教を信じることなる。
 泥の文明地帯では生命が満ちあふれ、そのため多神教となる。自然の山や川が地域の境となり、お互いに境界を守る。インド・華南・韓国・日本など。
 ここで注意すべきは、北朝鮮・華北などは泥の文明地帯ではない。
 なおインドの独立に当たって、ガンジーは「非暴力的抵抗」で成功した。これは泥の文明の考え方という。
 世界を代表するような文明の仮説であって、例外(たとえばギリシャは石の文明)も多いが、論旨が明快で、文明などに対する一つの見方として、一考の価値がある。
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2016年11月06日

代替医療の光と闇

代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?

ポール・オフィット    地人書館   2015.9
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 代替医療とは、「通常医療の代わりに用いられる医療」を指す。今のところ、通常医療に取って代わるような代替医療は存在しないという。
 代替医療でも効果がはっきり証明できれば、つまり科学的根拠があれば、それは通常医療に組み込まれよう。代替医療ではなくなる。
 代替医療は効果があることを証明できないので、医療といっていいのか。
 元気なときに、正しい知識を身に付けて、わが身を守らなければならない。
 この本で書かれた悲劇は、ほとんどがアメリカの話だが、今後は日本でも同じような悲劇が起こりそうなのだ。
 治るはずの通常医療を拒否し、代替医療に頼る。その様子を丁寧に解説している。
 すべてが詐欺師ばかりではない。間違った信念で「病が治る」と思い込んでいる人もいる。その「間違った」が通る歴史的いきさつや、社会状況の詳しい説明がある。
 アメリカのサプリメント業界の暴走ぶりが、なんと法的なお墨付きの下で行われているのだ。
 そのような、インチキ代替医療に騙されてしまった人たちへの、思いやりが読み取れる。
 代替医療だって、プラセボ効果で効くことも多い。だから代替医療とインチキ医療が見分けにくいのだ。

 一例としてビタミン大量投与があげられている。どんな薬でも摂りすぎはよくないはず。
 鍼に対しても否定的だ。鍼は体を熟知していないと効果は薄い。しかし、それなりの効果があるといわれている。科学的に証明できないのが問題か。


 最後に…、副題の「魔法を信じるかい?」は原文に有り、代替医療のことをいっているようだが、代替医療は魔法ではない。騙された人たちも魔法だとは思っていないだろう。魔法は信じていないはず。
 わたしは「魔法」とは祈祷医のようなものと思って読み始めた。たとえば、牧師にお祈りしてもらうとか。偶像に祈るとか。未開地域における祈祷師とか。
 全体的には読みにくい。言葉は易しいが、訳がこなれていないので、止まってしまう。
 「ひとりの男が…」とあると、「あれ、これはひとりでなくても、女でも該当すると思うが…、」と考えてしまうとか。
 延々と寄付者の名前と金額が並べられたりするが、「その名前や金額にどんな意味があるのか」とか。
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2016年10月30日

すばらしい黄金の暗闇世界

すばらしい黄金の暗闇世界
椎名誠  日経ナショナルジオグラフィック社   2016.6
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 椎名誠の本は、小説よりエッセイの方がおもしろい。
 この本は、そのエッセイの特におもしろいところばかりを集めたような、わくわくする本だ。
 世界中を旅し、それぞれの深部に入り、一介の旅行者では見ることのできない部分まで、見て経験している。日経ナショナルジオグラフィック社の素晴らしい写真集もある。
 無人島での漆黒の闇、空飛ぶ蛇、食肉ナマズ、ニューヨークの地下トンネルに住み着いた数千人のホームレス、パリの地下墓地、奥アマゾンの筏家屋などという、エッと言うような話が多い。
 立ちションをすると、その流れを遡って尿道口に突っ込んでくる食肉ナマズの話など、まさかと思ってしまう。(アマゾンの話)
 光あふれる日本社会への批判もある。東日本大震災以後、エネルギーの浪費を考えさせられたのに、懲りずに元に戻ってしまった。

 わたし(謫仙)は何回か中国旅行をしているが、一回の旅行で、一年分のエネルギー以上のエネルギー(ジェット機の燃料など)を消費する。自動車を持っている人はさらに多く使うであろう。
 著者がこうして世界中を巡っているとき、どれほどのエネルギーを消費しているか。そんなことにも言及して欲しいものだ。それに比べたら、一般庶民のエネルギー消費などたかがしれている。無駄は省かなければならないのは当然だが、一言欲しい。

 それはともかく、著者の冒険心には、判っていても感服してしまう。こんなすてきな本を書く才能にも驚く。専門書ではない。専門家でないわたしにとって、それが真実であることが判る程度でよいのだ。この本のような、読んで面白いわかりやすいというのが大事だ。
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2016年10月09日

日本海 その深層で起こっていること

日本海 その深層で起こっていること
蒲生俊敬   講談社   2016.2
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 日本海の成り立ちや、小さいながら独立して生きている理由などの解説である。
 深海の生物などを考えていたが、それはなかった。
 日本海の広さは、世界の海域の広さの0.3%でしかない。
 対馬海峡・津軽海峡・宗谷海峡・間宮海峡という浅くて狭い海峡で外海とつながっている。そのため海水の出入りが少なく、干満の差がわずかである。水深は最大3800mとかなり深い。
 このような地形では、深層は死の海となる。その例が黒海だ。
 ところが日本海は、比較的塩分濃度の濃い対馬暖流が北上して、酸素をたっぷり含んだ海水が北で冷やされ、重くなって沈み込む。そのため循環が生じ下層では掻き回され、100〜200年で循環は1周する(熱塩循環)。そのため深層でも酸素を含んだ生きた海水である。大洋では、その10倍2000年もかけて循環が1周するといわれている。黒海はこの循環が生じていないため、低層は死の海になる。
 こんなことから、日本海は豊かな海になり、季節風もあって対馬海流の蒸気が雪(雨ではなく)になり、国土も豊かになった。
 日本海はずっとそうだったわけではない。8000年前は死の海だったという。
 日本列島と大陸との微妙な距離、日本海の微妙な形が成立して豊かさをもたらすようになった。そのため、気候変動の影響を受けやすい海でもある。
 そんなことをいろいろな資料を用いて説明し、日本の歴史も考察する。
 そして今、温暖化によって、北海での冷え込みが弱まり、沈み込みが少なくなっている。循環が弱まり、深層では酸素が少なくなっている。同時に雪不足になり、日本の豊かさを損ねることになる。
 これが世界の海に対する警告となっているのだ。
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2016年10月02日

村上海賊の娘

村上海賊の娘
和田 竜   新潮社   2013.10
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 武侠小説ばりの痛快小説であった。
 村上海賊と言えば、後に村上水軍と伝わる瀬戸内海の有力海賊である。その娘の景(きょう)の活躍ぶりである。引用すると、
 和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、武吉の娘の景は上乗りで難波へむかう。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる。第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。

 戦国の織田信長の軍勢と、大阪にあった本願寺との戦いがあった。本願寺では兵粮が決定的に不足していた。そのため毛利に兵粮を依頼する。
 毛利は村上海賊の力を借りて、船で難波海から木津川を通って運ぼうとする。それを防ごうとする、織田方泉州侍、その一部は泉州海賊である。
 この荒くれ男の大活躍が話の中心である。
 本屋大賞を受賞した。

 さて、景(きょう)は醜女として名が高く、誰も嫁に迎えようとはしない。それが泉州では美しいと絶賛される。いったいどんな女なんだろう。これが第一の謎。
 ハーフかもしれない。西洋人(マリア像など)に慣れた人と、知らない人との差とか。となると出生の問題が生じるが、そのようには見えない。
 泉州海賊の長である眞鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)の超人的能力がすごい。ヘビー級レスラーを遙かにしのぐ身体能力。これは第二の謎。
 銛を投げると、当たった小舟は爆発して木っ端微塵。大きな穴が開いたなら判るが、爆発する理由が判からない。書いてないが、爆弾も仕掛けてあったのか。
 敵味方ともかなり損耗したはずなのに、実際の被害は五分の一程度。中心的部隊が壊滅すると残った兵は戦闘能力を失うので、五分の一でもほぼ全滅か。
 壮大な海戦の一部を大げさにした部分も、内力(超能力のようなもの)に逃げるようなことはない。泉州侍の言うことや考え方などまさかと思うが、全体的には史実に基づいているので、小説として成り立つ。かなりの長編だが休まず読んだ。
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2016年09月17日

女子読み「水滸伝」

女子読み「水滸伝」
秋山久生 著   岡崎由美 編集協力  2010年   三五館
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 この本は「たくせんの中国世界」に書いている、「岡崎由美先生と行く−水滸伝の舞台と世界遺産「曲阜・泰山」を訪ねる旅」の途中で岡崎由美先生からプレゼントされた本である。

 潘金蓮と張氏が感想を交えながら解説する趣向。張氏とは林冲夫人。
 水滸伝はほとんどの人物が紹介程度にちょっと出るだけなので、名前などあまり覚えていない人物の方が多い。この二人も潘金蓮は有名だが、張氏という名前は出てきたかしらという程度の出番。
 潘金蓮は悪女とされているが、読者は同情心が沸きやすいかな。不幸な生い立ちで、武大に嫁がされた。美人であったのが、かえって事件のもとになる。
 この二人のガールズトークだが、登場してすぐにあの世に行った二人の会話である。
 
1章 物語のあらすじ
 読者目線の会話形式であらすじを紹介している。読んだことのない人にも判りやすい。それでいながら内容は非常に濃いのだ。
2章 108人の好漢や重要人物の紹介。
 なんと全員イラストつき、持っている武器によって、得意技が判る。個性もアピールしている。その評価はかなり辛辣。
 タイプ分けに、イケメン・ワイルド・中間管理職・職人などは判る。しかし、空気とは。
 空気とはどんなタイプ? なぜか覚えられない人だと。
3章 「水滸伝」の成立過程や背景など。

 全体的にほとんどガールズトークなのに、必要な部分はきちんと説明しているので、内容は硬質だと言えよう。二人以外にも何人か登場する。
 例をあげよう。
 梁山泊の108人というがこれは将であって、数千人の兵がいる。これらの生活費はどうしたか。
呉用「梁山泊の資金源は主に略奪で得た金品です」
「そ、それじゃ強盗じゃない!」
 そう、梁山泊の好漢とはお尋ね者の集団なのだ。付近を通る金持ちから強盗をして生計を立てていることになる。強盗だけでは足りなくて近くの町を襲う山賊だ。町を守っているまじめな兵たちが大勢殺される。そこで生活している人には大変困った人たちなのだ。
 それだけで何千人が生活できるかどうか。だから宋江は天子の招安(しょうあん)を受けて帰順しようとする。それもリーダーの決断である。

   水滸女子の、
   水滸女子による、
   水滸女子のための
   水滸伝ガイドブック


 カバーに書かれたこの文字が、この本を表している。
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2016年08月24日

桜小町

ひやめし冬馬四季綴 桜小町
米村圭伍   徳間書店   2010.2

 遠江国海棠藩の下士の「冷や飯食い」一色冬馬22歳の婚活騒動。
 一色家は先代は中士であった。訳あって下士に落とされる。
 当主の弟つまり冷や飯食いでは一生まともに暮らせない。うまく他の家に婿入りできればよいが、下士の冷や飯食いではそれも難しい。
 そんな冬馬が、二番家老の娘に恋をした。美しい高嶺の花で、もし恋が実れば、家老になれるかも、というのだが、話が進むうちに、父の降格にまつわる過去の事件も絡み、大事件になっていく。
 二番家老の二番目の娘が、美しくはないが聡明で、冬馬をリードする場面もある。意外な展開が多く、楽しめた。
 米村圭伍の作品は、いつも貧しい武家の生活ぶりが詳しい。今回の一色家は百俵取りで三代5人が暮らす生活。

「ふくら雀」という続きがある。前半はだらだらして、途中で投げ出してしまった。間を置いて、あらためて後半を読むと、少し山がある。読み終えたが人に勧めるほどではない。
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2016年08月12日

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?

魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?
東川篤哉   文藝春秋   2012.9
     2016.07.27-1.jpg

 あえて言えば題名に偽りあり。
 八王子署の若手刑事小山田聡介は、上司の椿木綾乃警部とともに、殺人事件の捜査に当たる。
 犯人は…、読者は判っている。倒叙推理形式だから。犯人と小山田聡介の知能ゲームとなるのだが、小山田聡介は見かけは冴えなくて、犯人に名前も覚えてもらえないほど。実は鋭いところもあるのだ。
 捜査の難しさは犯人を絞り込むまでで、本来は相当の苦労をするはず。
 ところが、殺人現場にはいつも美少女家政婦マリィが現れる。これが魔法使い。魔法使いが魔法で犯人を教えてくれるのだが、そのままでは逮捕できない。裁判官を納得させる証拠がないからだ。
 そこから犯人と小山田聡介の「刑事コロンボ」を思い出す知能ゲームとなる。
 犯人が自ら証拠を提出してしまうのも「刑事コロンボ」に似ている。
 決して、魔法使いが魔法で証拠を探すなんてことは無い。そこでは魔法はあまり役に立たない。しかし、魔法で容疑者の絞り込みをすることが出来るので、そこまでの地道な捜査が省けるのだ。
 四編の連作中編集。決して魔法使いが完全犯罪をしようなどと考えているわけではない。犯人逮捕の協力をしているのだ。
 東川篤哉が書くとコメディになってしまう。それも楽しめる。

 続きがある。
 魔法使いと刑事たちの夏  2014.7
 縁あって、魔法使いマリィは小山田家の家政婦になる。
 なお、小山田聡介と椿木綾乃警部の怪しい関係が、ちょっと現実離れしている(^_^)。椿木警部は捜査の邪魔ばかりしている。それが、犯人を油断させていることになる。
 特に付け加えることはない。
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2016年08月02日

獣の奏者

獣の奏者(そうじゃ)
上橋菜穂子   講談社

「リョザ神王国」と呼ばれる異世界の地を舞台とするファンタジー。運命に翻弄されるエリンを軸に人と獣の関わりを描く。
闘蛇編・王獣編(2006年)の二巻で一応終わったものの、続編を望む人が多く、探求編・完結編(2009年)が書かれた。さらに「獣の奏者 外伝 刹那」(2010年)が刊行されている。
「決して人に馴れぬ孤高の獣と、それに向かって竪琴を奏でる少女」のイメージで書いたという。
 闘蛇(とうだ)という、鰐をイメージするような生物を武器とする大公がいる。この闘蛇の群れがある晩一緒に死んでしまう。エリンの母は獣ノ医術師であったので罪に問われ死罪となる。こどものエリンは母を助けようとして失敗し逃れる。
 エリンは蜂飼いのジョウンに助けられ、野生の王獣と出会い、獣ノ医術師になろうとする。
 王獣は空を飛ぶ獣であり、闘蛇の群れを一瞬で蹴散らすほどの力がある。
 真王の臣は、それまで家畜化した王獣を、恐怖によって支配していたが、エリンは王獣と意思の疎通を試みる。その手段が竪琴であった。簡単な会話が出来るほどになり、独自に王獣を操る術・「操者ノ技」を身につける。

 その間何年もかかるのだが、象徴的なシーンがある。教導師となったエリンは脅迫されて、「操者ノ技」を公開せざるを得なくなるのだが、他の教導師ではうまくいかない。なぜなら、その教導師が過去に恐怖で王獣を支配していたことを王獣が覚えていて、心を開かないからであった。

 政治的な事件や駆け引き、外交や内政の問題が続いて起こり、エリンは常に身の危険にさらされている。
 結局、エリンは過去の言い伝えをすこしづつ破ることになるのだが、言い伝えは重要な意味があり、それを破ることで大きな間違いを犯すことになる。

 こうして人の世は進歩していくのであろう。
 この緊張感あふれる生涯は、現代世界の幸不幸の外にある。物語世界がしっかり出来ていて、そのような世界ならそうなるだろうという共感を持てるからだ。
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2016年07月28日

沈みゆく大国アメリカ <逃げ切れ! 日本の医療>

沈みゆく大国アメリカ <逃げ切れ! 日本の医療>
堤 未果   集英社   2015.5
    2016.7.29.jpg 

 先日、紹介した「沈みゆく大国アメリカ」の続編である。
 全体的に著者の感情的な記述が目立ち、それだけ信憑性が薄くなる。特に日本の情報について、わたしでも知っていることが多く、たしかにそこは問題なのだが、もっとプラスマイナス両面から考えて、と思ってしまう。そのため矛盾を感じる箇所もある。
 ここで取り上げたのは、それでも読む価値がありますよ、と言いたいからだ。
 ジャーナリストというのは、正しく問題を提起できれば良い。その解決策は行政の考えることである。もちろん解決策が示せればなお良い。問題提起は出来ていると思う。

「沈みゆく大国アメリカ」でいった、オバマケアの欠陥の再確認的記述が多い。
 読んでいて恐ろしいほどだが、良い部分は全くないのか、疑問に思う。
 オバマケアが成立したのは、アメリカ国民が馬鹿だから(MIT教授)という記述もある。
 採決直前に出された、法案3000ページと関連規制で20000ページ、積み上げると人の背丈を超える書類の山。とても議員が読み切れるものではない。
 それはそうだが、それならなぜ採決を止めなかったのだろう。
 薬価の高騰にねを上げたアメリカ庶民や地方自治体が、同じ薬をカナダから五分の一以下で購入するという話もある。これなど、日本も研究する価値がありそうだ。

 対する日本の医療はどうか。
「国民皆保険」は保険ではない。国家による「社会保障」である。これを民間保険会社にやらせたのがアメリカだ。名前は似てもものが違う。
 国民皆保険についての無知は弱さになる。社会保障を失う基になる。
 政府支出に占める日本の医療費は国際的にみて決して高くないという。
 日本の医師の数は決して多くない。緊急病院の医師数、働く環境を見よ。これはこの本以外でも言われる。
 それから、佐久総合病院や亀田病院など、また足立区の学校給食の成功例をあげている。アメリカでも同じような動きがある。なかなかいい例だが、全国的に展開できるのか、普遍性に疑問がある。この参考例を基に行政は疑問を克服してもらいたい。

 前に、「日本の国民皆保険制度はいろいろな欠点はあるが、なんとか守らなければならないと思う。」と書いたが、つまり日本の制度にもいろいろ問題があり、常にこの改善も行わないと崩壊するだろう。
 キューバは医療の先進国で、経済は低迷していても外交に利用できるほど、というのはおもしろい。
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2016年07月26日

沈みゆく大国アメリカ

沈みゆく大国アメリカ

堤 未果 集英社   2014.11

 ここに書かれた話は本当であろうか。すさまじい医療の崩壊である。同時にマネーゲームの規模も。
 P23からP24に、2014年のアメリカの五大銀行が、四半期で279兆ドル(2京7900兆円)の利益を得る状態になっているという話がある。年間にすれば4倍、約1100兆ドルである。アメリカの総生産でさえ、2014年は17兆ドルだ。日本円の表示もあるので、円の間違いではない。

2015年
アメリカの総生産   18兆ドル
日本の総生産      4兆ドル
世界の総生産合計   73兆ドル
 この中から、1100兆ドルもの利益をどうやって引き出すのだろう。
 (続編で訂正があると思ったが、なかった)

 オバマケアといわれる、医療保険制度ができた。
 国民皆保険なのでいいことのようだが、なんとこの保険は民間の営利団体、つまり保険会社が行う。当然保険会社が儲かるように設定されている。たとえ制度では縛れても、薬価は自由なので、制度の心を無効に出来る。たとえばC型肝炎の新薬1個が10万円で12週840万円、これは保険のきかない薬だ。これは例外では無い。それでは医療費の高騰を避けることは出来ない。
 日本なら自己負担2割とか3割だが、アメリカのある保険は50万円まで免責で、それを越えた分が保険の対象で、となれば、保険の恩恵はまず無いといえよう。
 しかも、医師の66パーセントが割りの悪いオバマケアに参加していない。多くの人が保険料を払っても医療を受けられないということになる。
 それでいながら、医師も出費が多く、結果、低収入で自殺者の割合が多いという。
 労働者の三分の一が時給1000円以下。医療費が支払えず自己破産する人が年間150万人。
 前は軍産複合体と言われていたが、今では医療複合体となっている。
 これがいま、日本を狙っている。
 日本の国民皆保険制度はいろいろな欠点はあるが、なんとか守らなければならないと思う。
 この本の中心はオバマケアの欠点である。復活したウォール街の話題も少し。

続編「沈みゆく大国アメリカ <逃げ切れ! 日本の医療>」につづく。
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2016年07月21日

老人の壁

老人の壁
養老孟司・南伸坊   毎日新聞社   2016.3

 壁シリーズ(?)の最新版である。老人の持ついろいろな問題を、明るく説明している。
 養老孟司中心の対話で話が進む。漫才と思って読むとよい。
 これらの問題は答えがないことが多く、あっても一つではない。わたしも批判しながら書いているが、つまり、そのまま受け入れず、こんな風に考えながら読め、と言いたいわけだ。
 そもそも著者自身が十分に検討しておらず、思いつきで言っているように見える。
 何不自由ない金持ちの放言なのだが、いいことも言っているわけで、だから解説書というよりも、漫才ないし落語のまくらとして、疑いながら読むべし。頭から信用してあとで困らないように気をつけよう。

 特に気をつけるのは、疑問のあることを一方的に押しつけるあたり。わたしも同じようなことを考えているが、このようにはとても言えない。
 その差は、著者たちは、生活のことに何の心配も要らず、この発言がまた収入になるからだ。
 わたしは本当かどうか確認しないと、とても人には言えない。
 以下の( )内はわたしの感想

一 人はいつから老人か
 他人から老人として見られたときからという。そうなったら意地を張らず引退しなさい。
(数年後にホームレスにならなければの話。著者のように使い切れないほどの財産があるなら、安心して引退しなさい)
 自分で楽しみを見つけて、機嫌良く暮らしなさい。

二 忘却の壁
 健康診断には行かない。行っても行かなくても平均寿命は変わらないと調査結果が出ている。
(そんな統計はどこに? また著者は79歳の今までそれで生きてこられたほどの、健康な体をお持ちだから。苦しんだ経験のある人は、そうはいかない)

三 自然と老人
 清潔過ぎも問題。自然は中立で、自然食品がいいというのは人の勝手な思い込み。
(ごもっともだが、いいと言うのは人の体にとっていいのであって、自然にとっていいのではない。また不潔な環境で生活しなければならない人の苦しみが判るかな。たとえば部屋中がたばこの煙が満ちた仕事場とか。あるいは残留農薬で苦しむとか)

四 長生きだけが人生か
 医者に白衣は必要、安心感を与える儀式のようなもの。
 75歳以上になったら対症療法だけにしよう。苦しみを取り除くだけにする。
(そのようになったことのない人の戯れ言か、実践しているのならよいが)
 一億総活躍、やめたほうがいい。世のため人のためといって無駄に動き回る人がいっぱいいる。誰かが活躍したら誰かが突き飛ばされる。
 何のためにいつまで働くのだ。
(働かないと生きていけない貧しい人もいるし、働くのが生きがいの人がいる。利は少ないといえども、おおくは無駄ではない。逆に家に居場所がないので職場に縛り付けられてる人もいる。)
(世のため人のためといって無駄に動き回る人には迷惑することもあるが、やめてぼけ老人になると、周りがさらに大変な迷惑だ。適当に働いてもらった方がいい)

五 明るい老人
 遺言状など要らない。困ったらケンカして解決しろ。
(それでは残された人が困る、という心配が、実際にはあまりないんだろうな)
 葬式は要らない。墓も要らない。ただ宗教上の葬式はよく出来ていて、残された人を納得させる力がある。
(大賛成、残された人の生き方の問題で、困るようなら適当にやりなさい。わたしは無宗教だから)
(著者の遺族がそれで済ます可能性はないから、安心して言っていられる。本当に思うなら、遺言状に、葬式はするな墓は要らない、と明記せよ。遺言状は要らない、と言っているのに「明記せよ」は矛盾か)
 日本の自殺率は高い。イギリスは低い。なぜなら、イギリスでは自殺の代わりに人を殺すから、殺人率が高い(ほんとかな)。だから「自殺するな」ってうっかり言えない。
(ある統計の殺人率 10万人あたり、
アメリカ 3.82
イギリス 0.95
日本   0.28
イギリスが特に高いということはない)
 薬は飲むな、害があるだけ。抗生物質は特に悪い。自己免疫疾患、若年性の糖尿病、自閉症、肥満症などおこす。アメリカ人の異常な肥満の原因ではないか。
(ご冗談を、益のある薬も多くあります。著者はたまたま飲まずに済んだだけ。対症療法で苦しみを取り除くにも、薬は必要でしょう。また、ご指摘の疾患は抗生物質のない時代にもありました)
(わたしも基本的に薬とは毒を薄めたもの、という認識でいます。だから薬は飲み過ぎれば悪影響。食品でさえ食べ過ぎれば悪影響があります)
posted by たくせん(謫仙) at 06:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする