万能鑑定士Qの事件簿 [
2014.12.10記
台湾で海水を淡水化する技術ができた。ただし、盗まれないように公開していない。竹富町の町会議員がそこに出かけ、コップ数杯の海水を淡水化できるのを見て、12億円で買おうとする。
その録画だけで議会から承認を受けるが、ここからして疑問。そんな実体のないものに支払いをするだろうか。
技術だけにそれだけの価値があるのか。その技術を用いてメーカーが大量の淡水化装置を作れば、その装置なら買うだろう。技術だけなら、世界が利用できるのに独占する意味はない。波照間島の水問題の解決のためであって、島で工業化しようという話ではないのだ。
お粗末なトリックに、たまたま騙された人がいたという話になる。
台湾に振り込まれた12億円がその日のうちに現金化される。台湾の銀行がいきなり12億円の支払いができるほど、日本円を用意しているだろうか。疑問を持たず現金を渡してくれるだろうか。
これを台湾の老婆が船で石垣島に運び、そこの銀行からどこかに振り込もうとする。
老婆は間違えて郵便局に持ち込む。この時点でばれていたのだが、そこに至る経過が綱渡り。
日本の銀行で、外国の老婆が12億円もの現金をいきなり持ち込んだら、銀行員は疑問を持つだろう。それくらいのことも犯人は察しないのか。
それだけの犯罪の実行者にしては犯人はお粗末。老婆が正直に実行してくれると安心しているが、そのままねこばばされることは考えられないのか。
そこまで計画できるなら、たとえば香港の銀行へ振り込み、さらに日本の銀行に分けて振り込むなどして、マネーロンダリングしないのか。
トリックに絡む中国語の問題、まさかねえ。“汽車”と“火車”を間違えるなんて。汽車もバスでは“公共汽車”とあるはず。中国語になじみのない人は、そんなものかと思うかも知れない。
場所の勘違いもあり得ないと思う。湖を海と勘違いするなんて。被害者は“海の民”なのに。
スピーカーの話もかなり嘘っぽい。(説明は省く)
犯罪者の目的が判ってみると、その計画実行はかなりあやしい。まるで推理のために創作された犯罪みたいだ。
良かったのは、莉子の故郷や同級生に対する思いが、まわりの人にもはっきり判ったこと。莉子が劣等性だったことを知っている幼なじみの驚く様子もいい。
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万能鑑定士Qの事件簿 \
2014.12.13記
モナリザが震災後の日本に来ることになった。
そのためにルーブル美術館が日本の臨時学芸員を募集する。ルーブル美術館の休みの日に、館のあちこちに偽物を飾り、その中から本物を当てさせる。まさかと思うが、本当にそんなことがあったとしたらおもしろい。
莉子と里桜(りさ)が本物を当てて合格した。そして日本で、準備をする前に二人に直感で本物を当てる訓練をさせる。実はその訓練は偽物。莉子の鑑定眼が狂ってしまう。
鑑定は細かく観察して判断を下すもの。直感ではない。
莉子は鑑定眼を取り戻すまで、絶望的な苦しい日を過ごすことになる。救い出そうとする小笠原が少し活躍。
莉子が自己を取り戻すラストは爽快。
始めに尾行を恐れて新幹線で横浜に行く話がある。なぜそれで尾行を防げるのか、意味が判らなかった。
モナリザ盗難の犯人に、はい・いいえの首の振り方が逆というブルガリア人特有の性質が出てくる。特有の性質かな。また、それがとっさに思わず出てしまったというのではない。大がかりなグループなのに、そんなことを注意しないものだろうか。
電卓の改造もある。そんなことができるだろうか。
相変わらずたくさんの雑学が出てくる。モナリザの雑学もびっくりするほどだが、本当でしょうね。
いつも言うが、思わず終わりまで読んでしまうほど小説はおもしろいのに、疑問点が多い。
番外
「ゴッホの『ひまわり』が偽物だったとき、ミンクの『叫び』は本物。
では、『叫び』が偽物だったとき、『ひまわり』は? 直ちに答えるのは難しいだろうな。しかしメモしながら考えると簡単に答えが出る。
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万能鑑定士Qの事件簿]
2014.12.23記
莉子はなぜ、難事件を解決できるほど賢くなったのか。その成長する過程が描かれている。
話は莉子が万能鑑定士として開業した時にさかのぼる。
開業したものの、莉子は騙されてばかり。見かねた恩師・瀬戸内は、ある思考法を授ける。それは詐欺を見分けるのに大いに役に立った。
その中の、メモの取り方で、記号「=」と「VS」と「→」を使って物事を整理する・考える、というのは判りやすいが、それだけでどんなことにも正解にたどり着けるという。
さて、最大の謎、 事件簿T・Uで、
資本主義社会のすべてを支えてきたシステムが消失した。
タクシーの初乗り四万五千円だが、利用者はいない。
銀行では20万円までしかおろせず、それでは弁当三個しか買えない。
今の日本はまさに無法地帯だ。アジアの最貧国になった。 そこまでに至った日本が、偽札はなかったので元に戻せ、という首相声明で数日で元に戻る。できるかなあ。
資本主義社会のすべてを支えてきたシステムが消失したら、元に戻るのに何年もかかるはず。「消失」が言葉の綾としても、あの混乱で全財産を失った人も多くいたことだろう。数日ではとうてい無理だ。
しかし、数日で戻れたとすれば、というSFとして読まねばならない。
一流美容院チェーン・レティシアの経営者、笹宮麻莉亜はきちんと管理していたはずの社印を使われ、チェーン店のすべてを手放す羽目に陥った。
その社印が使われた謎を探る。裁判ではその書類の社印の印影が本物かどうか争われる。
電子顕微鏡で3000倍に拡大した画像を用いて同一と結論するのは無理がある。印を押すときの朱肉のつき具合や押す力などで、ぶれたりにじんだりで、押すたびに形は違うだろうし、そもそも電子顕微鏡でそんなことするのか。光学顕微鏡だろう。
そして、同一だったとして、それだけで店の権利は移動するのか。なぜ暴力団が手に入れることになったか、対価はどうなったか、警察としては当然私文書偽造で捜査することにならないか。
普通社印は領収書や通知書などに使われ、偽物を作ろうとすれば難しいことではない。だから、なぜその印を押すに至ったかという課程が重要になる。
そして、最高裁で原告や原告代理人の弁護士が知らないうちに、第三者が原告側証人になって実際に証人席に立つ。そして、問われてもいないことを話し始める。あり得ないだろう。
そして犯人の目的が大量の髪の毛を手に入れるためとあっては、それだけのことでそんな大がかりな詐欺事件を企むのかと首をかしげてしまう。
ただ事件そのものは大きな矛盾もなく、展開していく。
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万能鑑定士Qの事件簿 XI
2014.12.26記
京都に音隠寺という新興の貧乏寺があった。その音隠寺が未来を予測したために大ブレークする。
未来を予測するトリックを操る住職の水無施瞬は、莉子のもとの勤め先の先輩であった。瀬戸内陸の薫陶を受けている。
京都は観光都市であるが、中心は寺社仏閣における観光ビジネスであろう。信仰とは無関係ともいえる。寺社仏閣もそうでなければ維持できないのだ。
その観光ビジネスを正面に押し出した水無施は、立派な事業者といえるだろう。しかし、他の寺院(たてまえは宗教者)から反発を受ける。
未来を予測するトリックに問題はなさそうだが……、(スミマセン、いつも問題ばかり言い立てていますが)社会的には問題がありそう。それは犯罪か、詐欺罪になるのか。
いつものごとく、鑑定士・凜田莉子に小笠原が協力してその謎を解く。今までで、一番謎を解くことが中心になっていると思う。つまり鑑定の場が少ない。
解決に当たって、安倍晴明が使ったという「晴明六壬式盤」探しがある。山科の亥趙塚古墳で探し出す。この古墳の構造がおかしいと思っていたら、架空の古墳だった。
小笠原がかなり莉子に近づいたようだ。
本書の雑学に「奈良の大仏」というのがある。千葉県市原市にある。知りませんでした。
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万能鑑定士Qの事件簿 ]U
2014.12.30記
万博の太陽の塔が公開される。それに当たって準備しているころ、普通の主婦の誘拐騒ぎが起き、凜田莉子に主婦捜し依頼が持ち込まれる。
ほとんどが太陽の塔を巡る話で、それなのに話は大きく、「えっ、まさか」と思うようなことが多い。
いつもの読みやすさがなく、少し引っ掛かる感じがする。それは無理に謎にしているような感じがするからか。主婦の誘拐騒ぎの原因がわかってみると、そこまでするか、と思ってしまう。
雨森華蓮が登場するシーンはさわやか。
謎の解き明かし方がいつもと違うようだ。謎が謎がと続いて、いきなりあっという間に解決。謎解きの楽しみがない。もしこれがシリーズでなかったら、読まなかっただろう。と言ってもそれは読んでから判ることだが。
一応最終巻であるが、次の同じシリーズの一区切りである。
「事件簿」は終わり「推理劇」へと続く。
シリーズを通していえば、謎のための謎が多い。意味が判ってみると、なんでそんな手間をかけて謎にするんだ。というような話。凜田莉子という魅力的な人物を登場させて面白くしたのに、最後に「ん?」と思わせる。
それでも、久しぶりに痛快といえるほど面白い小説に会いました。